日常のカフスボタン

みたらし団子

ボールが跳ねると重力加速度が分かる

○ ボールが跳ねるときの音

家でスーパーボールなんかを高いところから落としたことはないだろうか.

落としてみると,ボールは跳ね上がって非常におもしろいものだが,地面に当たるのはだんだん早くなっていく感じがする.どれくらいのペースで早くなっていくのだろう.なんとなく指数関数的に減衰していくような気がするが......

ちゃんと計算してみよう.

目次

○ 簡単な問を立ててみる

一様重力{g}の下で,高さ{H}から質量{m}の物体を自由落下させる.この物体と地面は非弾性衝突するものとする.このときの反発係数を{e} ({0 \lt e \lt 1})とする.また,空気抵抗は無視する.

ここで,この物体が{n}回目の衝突で「地面から打ちあがるときの速さ{|v_n|}」,「地面との衝突後の最大の高さ{h_n}」と「地面に衝突してから次に衝突するまでの時間間隔{T_n}」はどのような発展をするか考える.

これくらいの問であれば高校物理の基礎レベルなので,履修者であればだれでも解けることだろう.

鉛直上向きに{y}軸を採り,地面を{y=0}として運動方程式を立てる.

{\displaystyle
m\frac{\mathrm{d}^2y}{\mathrm{d}t^2}
    =-mg
}

この運動方程式は,いずれの時刻であっても同様の運動方程式を満たすことに注意する.

■ 初めて地面に衝突するときは?

初期条件{v=0}{y=H}を課して運動方程式を解くと,

{\displaystyle
v(t)
    =-gt
}

{\displaystyle
y(t)
    =-\frac{1}{2}gt^2+H
}

となる.

落下までにかかる時間{T_0}は,

{\displaystyle
T_0
    =\sqrt{\frac{2H}{g}}
}

衝突直前の速度{v_0}は,

{\displaystyle
v_0
    =-\sqrt{2gH}
}

反発係数の定義 *1 から,衝突後の打ちあがる速さ{|v_1|}は,

{\displaystyle
\left| v_1 \right|
    =e\left| v_0 \right|
}

■ 2回目に地面に衝突するときは?

初めて地面に当たった物体は,運動する方向を鉛直上向きに変えて運動する.このとき満たされる運動方程式は,初めに示した運動方程式と同じだ.これを解くには,以下のように考えれば良い.

地面から鉛直上向きに打ちあがった物体は,1回目の衝突時{T_0=0}とする境界条件を課せば,初速度{| v_1 |}の鉛直投げ上げ問題に帰着する.

{\displaystyle
v(t)
    =-gt+e| v_1 |
}

{\displaystyle
y(t)
    =-\frac{1}{2}gt^2+e| v_1 | t
}

1回目から2回目の衝突までの時間{T_1}は,

{\displaystyle
T_1
    =2e\sqrt{\frac{2H}{g}}=2eT_0
}

また,1回目に跳ね返った後の最大の高さ{h_1}は,

{\displaystyle
h_1
    =e^2 h_0
}

また,2回目に打ちあがるときの速さ{| v_2 |}は,

{
| v_2 |
    =e| v_1 |
}

そろそろパターンが見えてきたのではないだろうか.漸化式を立てて,数列を解くことにしていきたい.

■ パターンを考える

2回目の衝突後に地面から打ちあがるときの速さ{v_2},打ちあがった後の最大の高さ{h_2},2回目の衝突と3回目の衝突の時間間隔{T_2}から,3回目の衝突の後にどのようになるかは検討が付くだろう.分からなければ,逐次計算していけば良い.

{
| v_3 |
    =e | v_2 |,
\qquad
h_3
    =e^2 h_2,
\qquad
T_3
    =e T_2.
}

ちょっとだけまとめておこう.

衝突打ちあがるときの速さ
{ |v_n| }
速さ{ |v_n| }で打ちあがった後の最大の高さ
{ h_n }
打ちあがってから次に地面に衝突するまでの時間間隔
{ T_n }
1回目 { |v_1|=e|v_0| } { h_1=e^2 h_0 } { T_1=2e T_0 }
2回目 { |v_2|=e|v_1| } { h_2=e^2 h_1 } { T_2=e T_1 }
3回目 { |v_3|=e|v_2| } { h_3=e^2 h_2 } { T_3=e T_2 }

これより,{n}回目({ n:n>0 }の整数)の衝突打ちあがるときの速さ{| v_n |},打ちあがった後の最大の高さ{h_n}{n+1}回目の衝突までの時間{T_{n}}は,

{\displaystyle
| v_n |
    =e| v_{n-1} |,
\qquad
h_n
    =e^2 h_{n-1},
\qquad
T_{n}
    =eT_{n-1}.
}

これを,{e}{T_1}{| v_1 |}{h_0}を用いて表すと,

{\displaystyle
| v_n |
    =| v_0 |e^{n},
\qquad
h_n
    =h_0 e^{2n},
\qquad
T_n
    =2T_0 e^{n}.
}

ただし,

{ \displaystyle
|v_0|=\sqrt{2gH},
\qquad
h_0=H,
\qquad
T_0=\sqrt{\frac{2H}{g}}
}

これより,反発係数{e}{0\lt e\lt 1}であり,いずれの値も指数関数的に減衰することが分かった.

○ 重力加速度を出してみよう

この減衰する衝突間隔を足し上げて重力加速度を出せないだろうか.

そこで,{T_n}について,自由落下を始めてから衝突が十分になくなる時間{T}を以下のように定義する.{N\gg 1}として,

{\displaystyle
T
    =\sum^N_{n=0} T_n
    =T_0+\sum^N_{n=1} T_n
}

ここで,第2項の数列{T_n}は収束するので無限等比級数和を考えることが出来る.これを計算すると以下のようになる.

{\displaystyle
T
    =\frac{1+e}{1-e}T_0
}

{T_0}を重力加速度{g}で表し直し,重力加速度{g}について解けば,

{\displaystyle
g
    =\frac{2H}{T^2}\left( \frac{1+e}{1-e}\right) ^2
}

■ 重力加速度を計測できる?

実際にボールを自由落下させて実験することで重力加速度を求めることは可能なのだろうか.上の計算結果から,重力加速度を計測するのに必要な物理量は{H,T,e}の3つである.

{H}はボールを自由落下させるときの初めの高さなので測定可能である.また{T}についても,ストップウォッチ等で測定可能である.どこでボールが跳ねなくなったのか決めるのかは任意性があるけれども,そこは上手く決めてほしい.

反発係数は,1回目の衝突前後の関係から,

{\displaystyle
e
    =\left| \frac{v_1}{v_0} \right|
    =\frac{\sqrt{2gh_1}}{\sqrt{2gH}}
    =\sqrt{\frac{h_1}{H}}
}

となるので,反発係数についても計測することが出来る.

したがって,3つの物理量{H,T,e}はそれぞれ測定可能な量なので,ここから重力加速度を計測することが出来る.

○ 備考

上では,運動方程式からわざわざ境界条件や初期条件を課して{v(t)}{y(t)}の式を導出することでそれぞれの値を出していたが,正直面倒くさい.

鉛直投げ上げの問題であれば,投げ上げの瞬間から最高点に到達するまでと最高点から地面に衝突するまでは対称になるので,{y(t)}の式を平方完成しておけば良い.

{\displaystyle
y_n(t)
=-\frac{g}{2}\left( t-\frac{v_n}{g} \right)^2+\frac{{v_n}^2}{2g}
}

これによって,最高点までの時間の2倍が打ちあがりから着地までの時間に対応するので,

{\displaystyle
T_n
=2\frac{v_n}{g}
}

であり,最高点は,

{\displaystyle
h_n
=\frac{{v_n}^2}{2g}
}

である.

また,打ちあがるときの速さは反発係数の定義から

{
v_n=ev_{n-1}
}

であることはすでに分かっているので,この漸化式を解けば{T_n}{h_n}もすぐに求めることが出来る.

もしかしてこんなに長々と記事を書く必要もなかったのか???

まぁ,計算技術的な話だから上の2つのやり方を示すのは教育的な価値があるのかな.

*1:反発係数{e}の定義

{\displaystyle
e
    =\left|\frac{v_{\mathrm{衝突後}}}{v_{\mathrm{衝突前}}}\right|
}